【忘れられた日本人】宮本常一著 岩波文庫
著者が、文化を築き支えてきた伝承者=老人達がどのような環境に生きてきたかを、古老たち自身の語るライフヒストリーをまじえて生き生きと描く。
(表紙より)
タイトル通り、今では現代人にすっかり忘れさられた生活や習慣を沢山垣間見ることができます。
民俗学の本ではありますが、自分のような全くの門外漢にも感銘を与えてくれる本です。
この本が出版されたのは1960年(昭和35年)。
その頃に老人だった人たちの若い頃となると、100年ほど前です。
100年は長いか短いか。
日本史にとってはごく最近。
しかし、日本人の生活様式にとっては、相当な隔たりがあります。
当時を「忘れられた時代」と言えるほど、今や様変わりしました。
この本のどの話も小説のようだ。
そう思えるほどです。
しかし、それらは実在しました。
この「忘れられた日本人」は「実在した日本人の生活誌」です。
生活や習慣だけではなく、夜這いや性の話、下ネタなども赤裸々に描かれています。
そこからも、当時の時代性を垣間見ることができます。
土佐源氏
その中でもとりわけ有名なのが「土佐源氏」。
これはかつて牛や馬の仲買(馬喰)をしていた盲目の老人が自分の人生を語ったものです。
「一昔前の小説なのではないか」という面白さ、そして興味深さがあります。
老人の話は女性についての話がメインです。
馬喰らしく牛の話も出てきますが、女性との恋の話に心が持って行かれます。
この土佐源氏からだけでも、1つの時代、この時代の1人の人生が想像できます。
時代を感じる民俗学
また、時代を感じられるトリビア的な話、そして伝承・伝承者とは何か、という話も魅力的です。
・山道を歩くときに民謡が必要な理由
・東西の伝承者の男女比・病人が歩くための専用の山道
・文字に縁の薄い人たち、文字を知っている者、文字を解する者の違い
・明治二十年を境にした伝承の違い
など。
実際に本を読んでこその魅力なので、是非手に取って頂きたい本です。
宮本常一氏の本で、何から読めばいいのか迷った時や、この手の話に興味のある方におススメできるのが、この「忘れられた日本人」です。