「鬼畜」の家―わが子を殺す親たち【感想】

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鬼畜の家 わが子を殺す親たち

 

 

 

「鬼畜」の家―わが子を殺す親たち(新潮文庫)

使用済みのオムツが悪臭を放ち、床には虫が湧く。暗く寒い部屋に監禁され食事は与えられず、それでもなお親の愛を信じていた5歳の男児は、一人息絶え、ミイラ化した。極めて身勝手な理由でわが子を手にかける親たち。彼らは一様に口を揃える。「愛していたけど、殺した」。ただし「私なりに」。親の生育歴を遡ることで見えてきた真実とは。家庭という密室で殺される子供たちを追う衝撃のルポ。

 (内容紹介より)

 

事件が起これば、マスコミは書き立て、テレビでも連日報道されます。

 

しかし、起こった事件の詳細ばかりが報道され、事件が起こった背景に関しては、あまり深堀されません。

 

本書は、その背景に切り込んでいます。

 

 

本書を読んでまず思ったことは、犯人の置かれている環境や思考が似ていること。

 

そして、犯人は加害者であり、一種の被害者でもあるということです。

 

虐待をして捕まった人もまた、虐待されて育ったという話はよく聞かれます。

 

事件の因子とも言えるのが虐待の連鎖です。

 

虐待の連鎖

 

これは海外でもそうで、シリアルキラーと呼ばれる人も親に虐待されていたり、親自体が「ヤバい」人であるというパターンが多く見られます。

 

もちろん、虐待されて育ったけれど、真っ当に生きている人は沢山います。

 

しかし、事件を起こした人に焦点を当てると、その人自身が親から何らかの被害を受けていた割合が高まります。

 

その親の存在というのが、「鬼畜の家」の始まりとも言えます。

 

本書の事件の共通点の1つが「親」の存在です。

 

事件を起こした人物は、いずれも母親から多大な影響を受けていると言わざるを得ません。

 

そして、意識しないうちに、そんな親と同じような行動をとってしまいます。

 

それが連鎖の一因になっています。

 

逃げ出せない環境と思考

 

もう1つの共通点は、「逃げ出せない環境」です。

 

・劣悪な環境から逃げ出せない

・もしくは逃げ出す術を知らない

・貧困

 

そうして泥沼にはまっていきます。

 

そのようになる原因の一つが、本人が「何とかなる」と思っているところです。

 

・電気もガスも止められても「何とかなる」

・子供を産んでも「何とかなる」

 

というような共通の思考が見えてきます。

 

これは親から受けた影響により、心を閉ざした影響なのか、それとも何らかの障害があったのかは分かりません。

 

ですが、少なくとも一般的な家庭で育った人間ならば、おかしいと思う環境です。

 

しかし、当の本人たちは「何とかなる」と思っていたり、そんな環境の中でも、

 

・子供を愛していた

・きちんと遊ばせていた

・きちんと育児をしていた

 

と言っています。

 

これもまた、虐待でしかないにも関わらず、本人は「しつけ」と考えています。

 

51ページに「育児イメージの乏しさ」という言葉が出てきます。

 

自分がきちんとした家庭で育たなかったからこそ、どのように育児をすればいいのかイメージがわかない、というのがあると思います。

 

しかし、生まれた時から親だった人はいません。

 

最初の子供を育てる時は、ノウハウも知識もありません。

 

それでも親は苦労しながら、心身ともに疲弊しながら、子供を育てていきます。

 

自分の親や育児の経験のある大人に聞くこともあります。

 

ですが、「鬼畜の家」の親は、そのような環境にありません。

 

何故なら、わが子を殺す親たちの親たちもまた、鬼畜の家の主と言えるからです。

 

汚い部屋 

 

もう一つ見られる共通点は、部屋が汚いことです。

 

しばしば「悪臭」という言葉が出てきます。

 

使用済みのオムツが床に置いていたり、排尿により汚れた布団などがそのまま置いてあったり。

 

そのような環境もまた、本人たちにとっては当たり前になっています。

 

テレビでも、ゴミ屋敷や部屋を片付けられない人特集が組まれたりします。

 

それは病気や障害との関連も指摘されています。

 

そのため、本書に出てくる人たちも、軽度の障害を持ってる可能性はあります。

 

また、339ページに、脳科学の所見から

「虐待を受けた子供は、脳の成長に異常をきたして発達障害に類似した症状が出たり、精神疾患を抱えたりすることがある」

とあります。

 

いずれにせよ、このような事件を起こすに至った何らかの影響や関連性があると考えられます。

 

その影響や原因、関連性を探り、断たなければ、連鎖は止まらず、虐待死もまた止まりません。

 

希望のエピローグ

 

凄惨な事件の最後に、どうしようもない環境に置かれた女性に対する希望ともいえる話が載っています。

 

「Babyぽけっと」という、特別養子縁組を支援するNPO法人での話が、ここでも悲惨な環境下にあった女性が出てきます。

 

Babyぽけっとは、そのような予期せぬ妊娠や望まない妊娠、産んでも育てられない女性を支援するための施設です。

 

誰にも相談できない女性が頼れる希望の場所です。

 

本書のような事件が起こる原因の一つが、抜け出せない環境と悪循環です。

 

もし、悩んでいる女性がこのような施設を知り、頼ることができれば、大きく変わるはずです。

 

事件のことをセンセーショナルに書き立てたり、意味不明な解説をするよりも、どうすれば事件が起きないようにすべきかを考えるべきです。

 

虐待の問題は根深く、一朝一夕では変わりません。

 

まずは事件や劣悪な環境の理解、そして悩む人たちへ支援の手を差し伸べることから始めなければいけないと、私は思います。