「物乞う仏陀」石井光太著 (文春文庫)
本書は著者が東南アジア八か国を巡りながら、その国の障害者や乞食(物乞い)と言われる人たちと実際に接触し、その実情を探った本です。
八か国を大まかにまとめてみます。
・カンボジアの地雷障害者、ポル・ポト時代を生き延びた障害者
・ラオスの戦争障害者の村、モン族の障害者の村
・タイで障害者が宝くじを売る理由、カンボジア人乞食グループ、盲目の歌手
・ベトナムの産婆さんから見た出産と障害者、物乞いの少年の風景
・ミャンマーのハンセン病の村、障害者と孤児の世話をする教会と十九歳の女性
・スリランカで障害者の世話をする日本語が達者な僧、障害者の誕生は業や因果という思想
・ネパールの麻薬の売人と麻薬障害者、ヒマラヤの呪術師
・インドで意図的に障害を負わされる子供、レンタルチャイルド
このような話が著者の経験を交えて進んでいきます。
貧困下で先天的な障害を持つ子供を生まれた家族の実態。
障害者の村ができる理由。
障害を負いながらも元気に生きる人と厳しい現実を強いられる人。
そして、知識や福祉の不足や貧困の関係。
中には貧しいながらも1日の終わりに仲間や家族と楽しく酒を飲む人がいる一方で、貧しさから抜け出せず、どうにもできない人たち。
片目などを失いながらも笑顔で著者にちょっかいを掛けてくる子供たちもいれば、シンナー中毒で道路に這いつくばる子供たち。
本書には、先天的な障害や戦争(地雷)により障害を負った人たちだけではなく、麻薬で障害を負ったり、意図的に体に損傷を与えられ、裏社会の人間に物乞いをさせられている人たちが出てきます。
特に最後のインド編は衝撃を受ける人も多いはずです。
わざと手足を斬り、物乞いをするという都市伝説まがいの話があり、そのことは本書でも少し触れられています。
しかし、そのような物乞いの実態だけではなく、更に根深い問題も見えてきます。
赤ん坊を拉致し、意図的に障害者を作り、その子供を娼婦が育て、子供をレンタルして物乞いをし、それをマフィアが管理する。
そんなマフィアもかつては親から捨てられ、ストリートチルドレンとして育ち、その道に入らざるを得なかった。
という、一言では語れないほど問題は深く、連鎖的でもあります。
語られる都市伝説よりも、生々しさがあり、その生々しさは著者が実際に足を踏み入れたからこそでもあります。
本書を読むと、東南アジアにおける障害者や乞食(物乞い)の実態・実情を垣間見ることができます。
もちろん、本書に書かれていることが全てではないと思います。
しかし、そのような人たちがいることもまた事実であります。
その事実が現実として胸に刻まれる1冊であります。